一首評の記録
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一首評〈第145回〉
楠誓英 「棺の跡」/『青昏抄』 水槽に一匹残つた魚のやうに列車の窓に青年が寄る 静かな歌である。水槽、魚、列車、青年のサ行音の繰り返しだろうか。この歌はひんやり…
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一首評〈第144回〉
穂村弘 『シンジケート』 「キバ」「キバ」とふたり八重歯をむき出せば花降りかかる髪に背中に 1990年刊行の穂村弘第一歌集『シンジケート』より、同歌集…
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一首評〈第143回〉
斉藤斎藤 「ちから、ちから」『渡辺のわたし』(bookpark、2004) 雨の県道あるいてゆけばなんでしょうぶちまけられてこれはのり弁 昨夜(2015年6月3…
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一首評〈第142回〉
雪舟えま 「炎正妃」『たんぽるぽる』 もう歌は出尽くし僕ら透きとおり宇宙の風に湯ざめしてゆく 「僕ら」は知っている歌を思いつくだけ歌い切ってしまったのか、それと…
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一首評〈第141回〉
高安国世 『HERBSTMOND』 光のなか光さわだつさまなして黒き鳩群橋よぎり飛ぶ 大学の先生から貸していただいた御本のうちの一冊に、この歌を収めた『HERB…
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一首評〈第140回〉
柳谷あゆみ (「こんにちはみなさん」/『ダマスカスへ行く―前・後・途中』) こんにちはみなさんたぶん失ってきたものすべて うれしいよ会えて 掲出歌は柳谷あゆみが…
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一首評〈第139回〉
米川千嘉子 『夏空の櫂』 桃の毛をひからせあらふきらきらと依存心ふかくさびしき今日を 桃の旬は夏から初秋だという。その日光が入りこむ台所で、主体は桃を洗っている…
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一首評〈第138回〉
大森静佳 (「秋とあなたのゆびへ」/『手のひらを燃やす』) これでいい 港に白い舟くずれ誰かが私になる秋の朝 「誰かが私になる」ことを「これでいい」のだとしてい…
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一首評〈第137回〉
山階基 「パラソルを抜けたら」/『はならび(4号)』 会ひたいが何にが何んでも会ひたいになつたあたりの折り目をのばす この歌の面白いところは、心情が物体のように…
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一首評〈第136回〉
澤村斉美 『galley』「210号室」 鳥 教会 草 雨 ガラス 君の言ふものにひたりとわれはつまづく 列挙されている単語に共通しているのは、透明感と何気なさ…