一首評の記録
-
一首評〈第91回〉
光森裕樹 『鈴を産むひばり』 そこだけがたしかにひぐれてゐる窓辺きみは林檎の光沢を剥く 『鈴を産むひばり』は美しい本です。さわってもひらいても心地良くて、すっと…
-
一首評〈第90回〉
服部真里子 『町』3号 はばたきのシステムという美があってそれに指先だけ触れている 鳥、例えば文鳥などの翼にそっと触れている場面を想起させる。この歌の主眼は、「…
-
一首評〈第89回〉
矢頭由衣 連作「ヴォイド」 直線を引き続けると前触れなく途中の道で日暮れに遭う 梅雨に入りました。何日か前の新聞に書いてありましたが、からだにもカビが生えること…
-
一首評〈第88回〉
盛田志保子 『木曜日』 一心に糸を巻く夜 死ぬ時は胸のところが遠くなって死ぬ まず思い浮かぶのは、黙々と糸車に向かって糸を紡いでいる女の姿である。「糸を巻く」は…
-
一首評〈第87回〉
下澤静香 「首筋」/『京大短歌』16号 モルディヴの形象をなぞる地図の上雨はそのまま止まないらしい 作中主体は、モルディヴ(インド洋沖の島国)の形象を地図の上で…
-
一首評〈第86回〉
吉田隼人 「二十三人」/『早稲田短歌』三十九号 立ちならぶこころの病気ビルはまだどの窓も灯をともしてゐたり 昼と夜の境目を明示することなんて、いつだってどうし…
-
一首評〈第85回〉
加藤治郎 『ニュー・エクリプス』 いつかって言わないでくれ ゆっくりと目の高さまで煙草をあげて この歌をみつけた瞬間、こんな女性になりたいと直感が言った気がした…
-
一首評〈第84回〉
澤村斉美 「マンゴー栽培」(『夏鴉』) 不信は長く人を支へてきたといふその人の持つ閑かなフォーク フォークの持ち方ひとつからその人の遍歴に思いを馳せる、簡単に…
-
一首評〈第83回〉
平岡直子 『町』創刊号 黒鉛が紙のおもてを滑ってこれは君が燃えても燃え残る雪 「ではなく雪は燃えるもの・ハッピー・バースデイ・あなたも傘も似たようなもの」(瀬戸…
-
一首評〈第82回〉
岡井隆 『朝狩』 あわれいま束を解かるる花茎のつゆけき交叉抱きあげむとす 第三歌集『朝狩』の「汚名・花から鳥へ」一連より。「花束が、解きほどかれるところを見て…