一首評〈第163回〉

千種創一『千夜曳獏』(青磁社、2020)

夜、縦の光はビル、横のは高速、都市化とは光の糸を編んでいくこと

 大胆にも「夜、」と場面設定と読点からこの歌ははじまる。夜にビルが光っている。高速も光っている。それがそれぞれ縦と横に伸びているのを、光が編まれていると見立ててみる。「縦の糸はあなた横の糸は私」といえば1992年にリリースされた中島みゆきの代表曲「糸」の有名なフレーズだ。「糸」では縦の糸をあなた、横の糸をわたしとして「織りなす布はいつか誰かを暖めうるかもしれない」続くわけだが、この歌では縦の光をビル、横の光を高速と見立てて、「都市化とは光の糸を編んでいくこと」だと言う。都市化といえばなんとなくマイナスなイメージも含んでいるが、「都市化とは光の糸を編んでいくこと」という語順のおかげで都市化がなにか清廉で希望のようなものに見えてくる。しかし、それがかえって都市化へのアイロニカルな視線をかすかに生み出す。裏の裏まで見えてくるのだ。「糸」という下敷きがありつつ、それを主体の視線・認識へ見事に昇華させた一首だ。

寺元葉香(2024年10月7日(月))