一首評〈第57回〉

笹井宏之 「数えてゆけば会えます」

レシートの端っこかじる音だけでオーケストラを作る計画

一年ほどまえから、レシートを噛むくせがついた。
たとえば赤信号の交差点。ポケットにレシートが丸まっているのに気づくと、僕はこの歌を想いだして、そのたびにひとり、レシートの一角をかじりとる。ぶつり。それは、自分だけにしか聞こえない音である。

ぶつり。この音に、耳をすませること。ぶつり。僕が知っているものではなく。ぶつり。見えるものを描くこと。ぶつり。オーケストラ!

掲出歌は、第4回歌葉新人賞の受賞作より。
このような歌がつくりたいとおもう。笹井さんにとって、それは「計画」つまり、プロシジャの水準の問題だけれど、僕にとって、それはもっと彼方なる、祈願以上、計画未満である。

10月1日現在、第5回歌葉新人賞が選考中。

下里友浩 (2006年10月1日(日))