一首評〈第7回〉

澤村斉美 『京大短歌』 13号

海へくだる水を翼で打ちながら群れの中より一羽が発てり

万物は皆、旅をしているのだと思う。
海原へと流れる水の旅、翼もて寝ぐらを求めてゆく鳥達の旅。
水も鳥も、旅は群れと共に続く。
ひとりは全体の一部として、旅を支えるのだ。
しかし、その中からたった一羽、飛び立った者が現れる。
それは力強く水面に跡を残して、空へ上がる。
些細なレジスタンスに過ぎないかもしれない、けれどその瞬間まさに飛翔したのだ。
人もまた旅人だと言う。
生から死へ、群れの中で群れに従って旅してはいないか?!
作者の意図とはおよそ見当外れかもしれないが、今の私には一つの応援歌である。
これもレジスタンスかもしれない。

中村綾 (2002年12月1日(日))