一首評の記録
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一首評〈第75回〉
フラワーしげる 『短歌研究』2008年9月号 きみが十一月だったのか、そういうと、十一月はすこし笑った 上句の、詰問とも嘆息ともつかないつぶやきの中には、意外…
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一首評〈第74回〉
魚村晋太郎 『花柄』 あなたが退どくとふゆのをはりの水が見えるあなたがずつとながめてた水 魚村晋太郎の『花柄』を私は主体と主体の中の「あなた」をめぐる物語とし…
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一首評〈第73回〉
土岐友浩 Blueberry Field ウエハースいちまい挟み東京の雑誌をよむおとうとのこいびと 土岐さんの詩観がすこしずつ垣間見えたのは、去年参加した京大…
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一首評〈第72回〉
我妻俊樹 「水の泡たち」 時計屋に泥棒がいる明け方の海岸道をゆれていくバス 「ことばの意味内容と響き、それからリズムがあいまって、読者を想像の世界に誘うこと。こ…
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一首評〈第71回〉
江戸雪 『セレクション歌人 江戸雪集』 碧空をうけいれてきただけなのに異形のひととしてそこにいる 『北朝鮮拉致事件 三首』と題されたうちの最後の一首。 どうしよ…
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一首評〈第70回〉
野樹かずみ 『路程記』 かたちなき憧れゆえに漂着の重油に浮かぶ虹を見ている 作中に虹は、漠然たる希求、かたちなき憧れの象徴としてある。しかし、主体が見ているの…
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一首評〈第69回〉
水原紫苑 『びあんか』 われらかつて魚なりし頃かたらひし藻の蔭に似るゆふぐれ来たる この歌と出会ったのは高校二年生の、冬の終りだった。学期末の消化試合のような授…
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一首評〈第68回〉
棚木恒寿 『天の腕』 相撲(すまい)する男すくなくなりしより清さやかなる水は店に売らるる この「天の腕」は、ちょうど1年前の2006年12月、棚木さんご本人に頂…
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一首評〈第67回〉
光森裕樹 「風のうはずみ」 ひだりうでに鎖をなして連なれる歯形を熱き陽にさらしをり 自傷の歌ととりたい。一首は初句から結句まで区切れをもたず、まるで「鎖」のよう…
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一首評〈第66回〉
佐藤弓生 『世界が海におおわれるまで』 背にひかりはじくおごりのうつくしく水から上がりつづけよ青年 「おごり」というマイナスの意味でとられることの多い言葉。それ…