歌会の記録:2022年2月28日(月)

歌会コメント

2021年度の追い出し歌会を開催しました。卒業生として穂波さん、永井貴志さんが参加されました。お二人に宛てた詠草は16首集まりました。

詠草

※作者名の後に続いて詠草を表示しています。括弧内は誰に宛てた詠草かを示しています。

『卒業されるお二人へ』

今紺しだ
雀らの遊びを見たり寂しさを転がして来し夕べの浅瀬(永井貴志さんへ)
幾重にも積もった春の匂いする小指の先でも感じるほどに(穂波さんへ)

奥村鼓太郎
思い出が古びるという誤謬から冗長に香りたつ沈丁花

武田歩
穏やかに確かにつづく町の色懐かし懐かし坂の後かな(永井貴志さんへ)
画面から外れた場所にもある気概 羽織ってから気づく袖口のほつれ(穂波さんへ)

福田紗菜
大鍋でカレーを幾度も煮込むごと思い出すうち馴染むの「すき」が(穂波さんへ)

小木曽
夕影に溶けゆく歌と向かい合い開催されなかった大会(穂波さんへ)

後藤英治
張り詰めた評を交わした後に行く君がめじりをほどくくら寿司
君が命を込めた雪女はこれからのどんな日々にも生き続けるよ(永井貴志さんへ)

渡辺理香
言い尽くしえぬ考えがいつもあるあなたの歌にダーシは伸びて(永井貴志さんへ)
甘い砂またたくうちに落ちてゆく時のかたちはスティックシュガー(穂波さんへ)

真中遥道
挿絵だけで親しんでいる本があり異国の文字をなぞってはみる(穂波さんへ)

金山仁美
公園は一人を満喫する僕にとって公園のまま 夕陽のしずむ(永井貴志さんへ)
他人事も他人事として愛せるし明るいほうへ橋は伸びゆく(穂波さんへ)

小野りた
やさしさの指で眼鏡をかけなおす仕草は京大短歌そのもの(穂波さんへ)
泉です 深くてきれいで透明なあなたのことばが満ち満ちている(永井貴志さんへ)



『卒業されるお二人から』


永井貴志

「書ける範囲でみなさんへ」

ほんとうに迷惑ばかりかけちゃってごめんね 許して、ホタルになっておくから(穂波さん、渡辺さん)

あなたには橋の上にて明滅するもう一人のあなたがいます(今紺さん)

靴裏に付いた砂利など払ったら歩みだす ときどき、誰もいない空へも(武田くん)

哲学をしずかに行うふうけいは輪郭をquarterする刃です(奥村くん)

小野さんは「カラカラタッタ」を詠むひとでいつもまっすぐに笑うひと(小野さん)

歌会に来ないで眠っていたときのしずかな存在感がすきでした(真中くん)

                 うた
現実につながりを、そして発光し出す短歌を眠らずに書く(金山さん)


「きょうたんへ」

あかるく光られている時計台の真下であかるくあきらめている、 
うた
短歌を詠む

気流、あるかないかのさよならの感覚で珈琲を混ぜた


「これから」

立っている木々を眺めてゆっくりと生きていると思う朝です




穂波

今紺さん
理科系の相聞歌あればまず思う今紺さんの歌だろうなと
詠み続ける限り切れない縁があり地続きの雨が京にも降るね

奥村くん
奥村くん大森土岐家に出入りしていると聞きました西川さんから
初めての葉ね文庫には後輩の名前の入った短冊ばかり

小野さん
ちえちゃんと呼ばれていたる小野さんを私もちえちゃんと呼びたかったよ
私の知らないところでたくさんのこと引き受けてくれてありがとう

金山さん
その背中に隠れて京都と大阪と東京とあとはどこへ行ったっけ
「手がかかる後輩」は今も後輩の中で一番手がかかるかな

小木曽さん
どことなく似てる気がする初めての桜並木の後輩でした
講義室で穂波さんって呼び止めてもらって思い出す穂波さん

武田くん
頼んだらいいって言ってくれるから何でも頼んでしまってごめん
新しく始めたいこととして短歌選んでくれてどうもありがとう

永井くん
変わらない 歌も眼鏡もしゃべり方もリュックサックの内の太宰も
三人のうちの同期のひとりだしもっと歌会来て欲しかった!

福田さん
午前三時に編集をする紗菜ちゃんの生活リズムが心配でした
今ここで会えて幸せ橿神の同じ電車で奈良に帰って

真中くん
数式と短歌の交差するところその十字路に佇む人か
鴨川はいいのだろうがくれぐれも鴨川以外は飛び込まないで

渡辺さん
「三時まで飲んでました」という声のトーン変わらずただ者じゃない
何かあればすぐに泣きつくアイコンのぐでたま熊野寮に繋がる


大津よりほとんど穂波であった日々が私に京都を思い出させるだろう
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