歌会コメント
榊原紘さん、坂井ユリさん、山田峰大さんの三名の追い出し歌会でした。参加者は12名、詠草は150首以上、司会は阿波野さんでした。これからもお会いできると分かっていても、さびしいものですね。
詠草
01 山田さんへ けんけんぱ人種性別信条等、地雷踏み分け会いに行く、いざ/山田峰大 踏み分けるたびに地雷はひとつ減りやがて花野にほほえむふたり 坂井さんへ 誰も私に味方がいない 星灯る 橋はわずかな坂だと気づく/坂井ユリ 白い米から白い湯気 やわらかい声のあなたに味方はいます 榊原さんへ 眼鏡屋は夕ぐれのため千枚のレンズをみがく(わたしはここだ)/佐藤弓生 例えばさ君を恋しく思うときカンディンスキーの緑だ僕は/榊原紘 千枚のレンズうっとりみがくとき君はパウルクレーの橙 /橋爪志保 02 坂井さん 酒樽にたゆたう麹 歩き出す前に左に傾いて、行く 頬紅の鮮やかなときそうでない歌会のときありてうなずく 分かること悲しくなりて紡ぎ出す布の横糸したたかにある 野分ゆく 浜辺のきみはしろじろと押し寄せる波に足をつけたり 朝ぼらけ磨りガラスだけが聞いていた布団の中の小さな言葉を 榊原さん 小雨でも濡れたりしない 軒下におさまるふたりのつま先の向き ブローチを指でつまんで木材の明るい色にならべゆきたり まっすぐに見えている月 信号の赤を待つのがたまには好きで 夜にある淡い色彩つめるのはコルクのついた瓶でなければ 凹レンズ越しの視界を我がものに 今日のきんぴらごぼうはかため 山田さん 思いつかないことを思いて思うこと千枚漬けの重なりの音 布団には毛布を乗せて暖をとるあえて背中で毛布を感じて 『なんだこれ』から始まったハーブティー飲みなれたころ『まずい』がわかる 遠くから評が聞こえるそれをただ町の隙間で待っていたんだ 延々と続くトンネルばかばかばかばかばかばのしっぽのしぶき /中山靖子 03 山田さん 冷泉に経つ年月を落としたら散った桜が帰るだろうか /飛雄馬亜 04 榊原さんへ 寒ささへ愛(かな)しくなつてきてぼくら薔薇戦争の広野へ向かふ 坂井さんへ さざんかのかたちのようにいっぱいの夕映え、はじまりの季節まで 山田さんへ みねピというピアスをどこにつけましょう(誰だって輝かせてみせる) /濱田友郎 05 さまよえば夜空、いつでもうれしさに(泣くなよ)歌うから、聴いてくれ * ふくらんでいる水鳥をゆびさして歩くあなたがうつくしかった 「わらい」は僕らの聖地。 サイテーな会話を会えばいつもした ゆうてでも(ソーリー)また会える * 完璧に年を取らうよ お互ひの口調の真似をたまにし合つて さびしいよ。 さらに課金を、薔薇よりなおも美しい言葉を、閃(ひろめ)く道を行きなよ * 「あたしの今日のパンツはいちご模様 あんまりエッチなことばっか考えんなよな!」 つかさちゃんゎ。。。パリにいくのに。。。じぃちゃんゎ。。。ぱんちぃー(やはり)いちごぱんちぃー また歌会しましょうね。 いやまだだ、みね打ちなんだ追い出しは (引くぐらい露骨だ)歌をつづけて * 秋の夜に輪廻をぼくは願う。うん。遠くにわずか生まれた余韻 まさに言葉の旅なのだから愛すればおしなべて咲きうる揚げ花火 /阿波野巧也 06 さかいさん いたいのいたいの、となえてくれたら治るからあなたのにおいのひなたで眠る さかきばらさん つばさのひと つかんだ風でやわらかくいろどってゆくあしたのくらし やまださん ひまわりになれなくっても会いに行く太陽をふうせんみたいに連れて /北村早紀 07 さかきばらさん さよならを隠したままに来た街の晩景あわく落花を抱いて 奈良マスターさかきばらさん 二月堂下る両脚なんべんも春待つ街に差し込んでゆく さかいさん 桜道 風受け止めて一斉に揺れる花々りりりりと鳴る 神宮丸太町で下車 真夜中の丸太町ゆくわたしたち強めの雪に強がり言って みねぴさん ミッドナイト 眠れぬ夜にぴったりのラブがある街ぶらり下車する 百万遍のマクドで女子会 夕暮れはすぐそこにあり女子力がマックシェイクに奪われてゆく /松尾唯花 08 飛雄馬亜さんへ 彼女さんには悪いけど「亜」はやっぱいらないと思ったの 春馬は来月の季語 若駒の雄飛を見ずに立ち去っていく 田島さん パイナップルありがとう。勉強がんばってください! スジャータの乳粥のごとき鳳梨(pineapple) 智慧を与える魔法の果実 阿波野くん のろけ話も歌と同じクオリティーに達しつつあると思います 春暁に恋猫の声意味をなす 歌ものろけも春に極まれる 中山さん とても良い鹿児島マインドを教えていただきました ケセラセラなんくるないさケンチャナヨ そしてあなたの「てけてけねぇさ」 詩風くん いつもひそかにかわいいと思っていてすいません 初冬のろまんすぐれーぱっつんの折なぜ君は京短(きょうたん)に来なかったのか 北虎くん ひたすらあなたのことをイメージしたらこうなりました 気まぐれな場所で「おうっ」と再会し別れて二年後「おうっ」ってなりそう 橋爪さん 雪舟えま「キモい」って言ってすいません。もう土下座とかしますんで! マリンバの音がたんぽぽ咲かすならたんぽるぽるが正しい名前 濱田くん 小林さんお持ち帰りとかもう(アナグラムです) 底知れぬ類い稀なるお洒落感まとう肌には誰かが触れる 寺山くん 汎用性の高いアナグラムでした 暮れ遅く夕山透けて妙法の「去」の部分がひたすら細い 坂井さん いつも歌の評「静謐」しか言わなくてごめんなさい 骨壺に冷えゆく骨の手触りよ あなたのいつもは静謐である 榊原さん いつも失礼なこと言ってごめん。これで最後です(アナグラムです) 唐変木 食えない奴よ かりんの木 屁こき酒場の 榊原さん /山田峰大 09 * たぶんもっと話せたね はしやいでるしづかな言葉めくるめく詩がつながればホーリーナイト * 膕に夕陽がまるく浮かぶ いま始まるすべてに憧れながら * 音楽の趣味がとても合う 来るべきたとへばエンド、ラッキーな映画みたいに友とさいだぁ * 不死鳥の巣って美味しそう 春がゆく。待つてくれない。だとしても諸刃のきもちをうつくしくしろ Back in the USSR 今はない国のお城へ行つてみせてよ * 照らされた闇に浮かんだ繭のことうすく輝く気高さを持て * 今日からあなたもピョンサーの一員 俳句:新米はあなたのもの、あなたのものだ 初対面のときは失礼しました しゃかきばら・しゃかいの2人に挟まれて今日からあなたもしゃかの一員 この街の遥かに雪はさんざめき、ひよわな日々の火よ、また灯れ 合わす顔がないなんてない 十五夜に月がみえないこと赦すひと/松尾唯花 (「湖畔の硝子」、『短歌研究』二〇一四年十一月号(新進気鋭の歌人たち)) 合わす顔ならある十面相はある いざよはないで切符を通す きみもユダ、わたしもユダに名を変える薊だらけの野の柔らかさ/松尾唯花 きみはユダ、だとして何も困らない 燃える野の数だけ祝言を * きみの怒り方ちょっと苦手だ きみは僕のために泣かない、それだけがやけに明るく灯つてる道 正しさに危うくたてよ 生活にオリーブオイルほどのきらめき ウエーイ! ってきみが言うからウエーイ! とノッてみる 妙に間が空く なははってよく笑うよね(それが好きだった)自転車のパンク直そう 馬鹿にしたことは一度もない(ないよ)ずらされているフードを見遣る Q.二人で飲んだあの謎の回生コンで飲んだ日本酒の名前はなんでしょう? たぶん君はかんたんに忘れちゃうだろう呼びかけるだけです、僕からは あなたには言えないことが多いから草原、こんなにも僕の胸に/阿波野巧也 あなたには言へないことが多いから、たまには食べるポッピングシャワー * 壊れたブレーキ 「狼がきたぞ」と言えば槍を持ち「退治しましょう」と言うようなひと 気づいたらたくさんの花を毟ってた ささくれだっちゃう君もまた君 いい下着つけて暮らせよ!夢でしか性を失くせぬ僕らなのだし たくさんのことを面白がったよね君には「遭遇した」って感じ 絶え間なく君の横顔けぶらせて疾風、この世から花を巻き上げろ このままでゐれるかどうか 虹のやうにひとの視界の端を照らせば 言葉にまみれ、僕らは所詮血の器 現世は愛にだらけてゐるよ * 僕の愛する眼鏡男子よ もっと君が捩切れるのを期待してなんでも凶器になるよねと言う 夜の街をたらたら歩く二人組全てにロケットランチャー!(イメージ) 「何を言つてるんですか」つて呆れるとき君の唇へと宿るぬくさよ Nameを教えて。風上に立つ翅のやうな、指弾を恐れぬ風車のやうな * ツンデレもいい加減にして ごめん、向くん 僕には信仰心がない 偶像を創り出しては舐める 言葉には胡乱でもいい訓戒を又聞きしては捏造しよう * リュック買うのに付き合ってくれてくれてありがとう。ワッフルのにおいを背負うように日々は 終末をいかがお過ごしでしょうかと君の好きそうな誤字を見つける/村川真菜 終末はいかなるように過ごしてもいい遊ぼうよ殺されるまで * 貴女は僕の中で永遠に暮らすひと 「焼き畑は肥沃ですよ!」 焼け跡に僕は一人で立つてゐた貴女が鍬を持つて来るまで 朝として重ねられゐるパンケーキの、明るく言つてよ始めるのなら 異国語をおしぼりのやうに差し出してどうしてこんなに清潔だらう * 興味があることが似ていて、それが純粋にうれしかった 多幸感に焦らされてゐる間違いはなおあるとして強がりたいよ Sie ist gerichtet!(裁かれた)(Nein,)(いや、)ist gerettet!(救われた)(最後だよ)Nur(最後) die(が) Wurst(ひとつ) hat(とは) zwei(限らない) Ende. * きみの口癖を最近見破った 陽光を背負つて会ひにきたきみの感嘆語が好き 今日はどこ行く? 花束に巻かれたリボンの鮮やかさ、あるいはきみのボトムのゆるさ 約束を果たしてくれる しづかにキャラメルケーキをお皿をのせて うら明るい視界に落ちる白朮の葉ふれればきみの声がエコーで * あなたと食べるご飯はいつもおいしい アイコンタクトしたあと笑ふひとだからほら川の音がこんなに近い 見る淫夢(ゆめ)の規制をされて今僕ら酒で酒だけ流し込んでく エーテルがあなたの水面を照らすやう形のよくない指を折り込む ああ僕は鱗だらけの橋に立つ 泳ぐ全てのものに祝祭 そういえば深海魚水族館とか行ってませんね。 お金がない僕たちはまた会えるでせう 口癖うつしあつて夕光 あの夜のLINE応答(嘔吐?) 始まりがわかつたことなど一度もないよ かさぶたの下の傷、風、栞、百合、あなたがしやべるうつくしいもの * もっとお話しししたかったのです 踏み越えていくぜ 着火の合図なら待たせたな、クソ女からの一撃 やへむぐら まつげの先までダミーでも ねぇ、この街のヒロインになろっ☆ 感情は歌はない環状の端はないダダイズム、モアイはまだか 見届けて。熱を持ちつつ光つてたローリンガールのラフな魂 * ダブルデッカーの京阪が僕を運べば 存在よお前はどんな歯を見せる わたしにはもう岐路しかないが 会はなくていい/会へなくて当然の場所にゐること ここからがいい 終電のたび駆け抜ける百万遍 夜には夜の光があつて 愛ならばどんなに楽か丹波橋乗り換へをするときの俊足 チューハイで零すおさない暴言を聞きとつてほしかつた、いつでも 掃海艇で言ふよ「あなたを逃したい」相対のまま、邪なまま /榊原紘 〈番外編〉 坂井さん 差異それはかなしみなのか 言いかけて百合のごとこくりと頷いた ささやかな感情のこと意志のことゆれているのはリコリスの群れ * 榊原さんへ さかさまに牙をむくのならばおいで泣かない猫を起こしてまわる 咲かないと決めて見ていた薔薇の花ひとつひとつに蝋のつやめき * 山田さん 約束はまだしないけど見に行こう眠りのあとにひろがる海を /山階基 その日関西にいらっしゃっていたわせたんの山階さんが、詠草のみ参加してくださいました。
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