歌会コメント
追い出し歌会。参加者13名。
笠木拓さん、藪内亮輔さん、小林朗人さん、廣野翔一さんの追い出しでした。
いままでお世話になりました。また京都で会いましょう!
司会は阿波野でした。
歌会は160首強と恐ろしい歌数でした。
詠草
01 京都と金沢はサンダーバードで二時間強 かささぎの風切り羽根を追い友といな妻として会いに行く、今 女狐の嫁入りの日のアメジスト嫉妬の雨は日照雨Friction!! ちはやぶるやぶうち卒業ぶっちする可もくれないの微分幾何学 このごろの日和見びより秋びより秋足早ところころごころ /山田 峰大 02 鍵 別れとは出会いの始まりもう一度あなたと出会い直したい春 ち ~千ちの智ちをもつ父ちへ~ 良(よ)き歌(うた)と幸(さち)運(はこ)ぶ夫(そ)の美(うつく)しき表情(ひょうじょう)がやや色気(いろけ)あり好(す)き /中澤 詩風 03 笠木さん 腕(かいな)から差しだす銀糸を受けとって立ち去るきみの靴は藍色 ろうそくが花火を照らす袖口に銀の時計が見えかくれする 前髪のバレッタは黒うつむいた額にわずかもたれかかって 今日もまた輝くKIRA☆POWER充電をするときの稲妻は最高 藪内さん やや応えぶちの家(うち)ねこ両腕を煤にまぶして毛を整える 垂れこめる雲のいろでもしっとりと背景にする裸足のあなた みずたまり足を落としてはねる水その水がまた足をぬらして 雨が降りハナガサイタヨ。頭振り無い旋律をはね返してゆく 廣野さん 広々と老馬は野原を歩みゆく小国の一王子を乗せて 砂漠にはオアシスがあるシーソーのない街で生まれそこに向かって 立ち止まるための前傾Cactusの九割以上は水で出来てる 赤ワインすかして見れば蛍光をはらんで笑う「ちゃうねん」 小林さん この場からやさしいものを消したときあの杉の木とあなたは並ぶ ただしろく果てのない地にきみと杉触れればいのちの固さをもって 根を下ろし吸いこむという所作のみを行うものに「きみ」と呼びかけ ーーヒューストン、こちら替え玉着陸の軌道に入る逆噴射A /中山 靖子 04 ときは今笠置の山の小林に曲水いずる野茨の叢(むら) 藪内を発てば廣野に清風(きよかぜ)の興り四方へと吹き行くをみる /金山 知広 05 やぶうちさん 痛みからひろがる熱い熱いもの(ふれていたのは牙だと気づく) 約束を破らぬうちに帰ろうよ理由のように素足蹴り上げ ひろのさん しずけさの真中(なか)で燃えゆく花びらがひととき前まで薔薇だったこと 必然は蝋の解(ほど)ける調べにも夜の洞(うろ)にも生ける塵にも こばやしさん 桟橋でふいた花びら眠る人のまぶたにそっと集う花びら こころばかりやさしさばかり諦めてとめどないから卵はきらい かさぎさん 透明になって会いたい坂道を減速しないように立ち漕ぐ 隠さずにいられなかった鍵穴はあなたが来るのを待っていたこと /北村 早紀 06 小林さんへ 感情を続けて君に会いにゆく何度も水を汲み足してゆく/小林朗人 いつの日か感情は蔦を持つだろう絡まりながらもきみは笑って かさぎさんへ たしなめてほしいと思う 屈折で幻日は確かに生まれ直すよ 帰りたくさせてください 銀貨には残桜、夜の隙間に落とす 僕は風ではまだなくてマフラーの毛先の種子をつまんで落とす/笠木拓 はぐれながら何かの種子が風に乗り日々は波打つように繋がる 藪内さんへ ぎんぶちの眼鏡をひとつ抛(なげう)つて本当の告白をしようよ/藪内亮輔 ぎんぶちの眼鏡をひとつ捕まえてみどりぶちの上から掛けようか ファウスト第二部 天使たちの合唱 黒い、黒よりも黒い髪に降る天啓あるいは薔薇の花片 ひろのさんへ さっきまであった日向が消えている人は変わらずそこを通るが/廣野翔一 ついさっき生まれた日陰を越えてゆくあなたは変わらずドヤ顔するが 「今、誰と生きているの?」を知らないで君は地下街へと消えていく/廣野翔一 「今、誰と生きていたいの?」新しい街であなたはお湯をわかして /榊原 尚子 07 小林朗人さんへ ヘイ龍(ドラゴン)カム・ヒアといふ声がするまつ暗だぜつていふ声が添ふ/岡井隆『宮殿』 ヘイ、拉麺(ラーメン)、ヒウィゴーという声がする(こってりだぜっていう声が添う) 廣野翔一さんへ 傷つけずには愛せない/Mr.Children「CROSS ROAD」 エアドラム叩いて春のカラオケの光のなかにぼくらは歌う 藪内亮輔さんへ おしよせる魚(イヲ)ことごとく凍らせてあいを重ねるほかになかつた/藪内亮輔 あなたとのあいを重ねてゆくたびに咲いたよぼくたち下ネタの花 笠木拓さんへ 青鷺、とあなたが指してくれた日の川のひかりを覚えていたい/笠木拓 対岸は遠いけど羽撃くか鷺、川のひかりのまだ揺れている /阿波野 巧也 08 笠木さん だいじなのは 臆さないこと 卑屈にならないこと きちんと気持ちを伝えること/『青い花』志村貴子 いつか手は届くのだろう小窓からふり注がれる青い花まで あたたかくなりつつ雨は落ちてゆく 傘へ、あなたへ、あなたのゆびへ そうやってあなたは悴む手で傘を(心配ないよ)きちんと閉じる 藪内さん 忘れないでいよう、とあなたが言いました。何を、と聞きました。今のことを。今までのことを。これからのことを。あなたは言いました。/「おめでとう」川上弘美 本当のことは本当すぎるから(きらい)ときどき腐らせる花 朝はあなたの額にいつもふれにくる白く器を重ねるように 珈琲のミルをまわしてにおいからあなたも日々もうつくしくなる 廣野さん あげられるものなんて心くらいしかないから君に渡そうと思った。/『ハチミツとクローバー』羽海野チカ でも指は惑うのだろうゆっくりと誰かの鎖骨をなぞるときでも 冬の木が西日を刺している傍であなたはふいに顔を歪める なんどでも広野が夜を越えるうちあなたはあなたへと辿り着く 小林さん すべてが、なんて退屈だろう。然し、なぜ、こんなに、なつかしいのだろう。/「青鬼の褌を洗う女」坂口安吾 やがて記憶は景色となってうつくしく広がる くもった眼鏡を外す たくさんの水が体を流れゆきキリンのようにあなたはねむる 銀杏の葉色づくまでの空間にあなたは光を与えてほしい /坂井 ユリ 9 廣野さんへ 歩道橋に登ればナンバープレートの見えない車が列をなしゆく 小林さんへ いっぽんの花を燃やす火 目をとじて抱く言葉を持っているから 藪内さんへ 草原(くさはら)で旗を濡らしていた雨がいつしか水にうつりゆき、愛 笠木さんへ 夕焼けはしずかに鳥とまどろんで水面をゆらす これはフェルマータ /牛尾 響 10 Sobae(version.321) *とりあえず思いついたひとについて 榊原さん 水を換え生きていく姉 僕に眺められながら水換えていく姉 藪内さん 藪内亮輔でたぶん合ってるそういえば何も植物を知らんかった 坂井さん 米炊けり そしてあなたを思い出すから麦酒色の世界の隅で 阿波野くん 実際は街を裏切らない人と街から街を渡る私で 橋爪さん 号泣が始まる前にまた会いにゆく楽園のハンモックで待て *3・20(木) 10時、法学部卒業式 オルガンと雨 法学部卒業者栄光館に入りゆきたり 12時、良心館に移動 雨雨雨雨雨雨それやのにあちらこちらに被写体だらけ 12時半、文学部卒業式 今日はどうもこばやしくんの音沙汰を聞かない 祝辞について話す 16時、地元の自動車教習所 ブレーキの踏み方をなじ…指導され小奇麗過ぎる建物へ帰る 18時半、三条駅すぐSHUHARI CASA いちおうは主賓やけども結婚の話題が面白過ぎて忘れる *3月21日(金) 心斎橋のソフトバンクショップ 親の捨てたさがやばいがこらえたり地下街の上にまた街がある 虫武さんのツイート 天気雨降りしというツイートを上から下へ流してしまう 京阪電車乗って出町柳 支給されたるアドレスをすぐにかき消してしまえりトンネルの前 ファミリーマート賀茂大橋店 ギガさんに接客されるギガさんは日本人なり漢字尋ねる 今日も卒業式 袴着し女の子とおっさんがたたずんでいる賀茂大橋に 雨 百均のローソンへ逃げるにはもはや手遅れ過ぎて傘がない ない 栄光館は同志社女子の建物 昨日にはスーツ着ていた私だが通行人として過ぎてしまう 日が射す これがもう最後と思えばむしろ楽で今出川通りで見る日照雨 sobae! ヒーリン・フィーリン今出川店 この街は故郷にあらずかといって異郷にあらず 日照雨尽きたり /廣野翔一 11 かなしみ、そして 阿波野巧也さんへ 何度でもワクワクさせてあげなさい きみのなかにきみが驟雨のように降ることがぼくたちをワクワクさせる 牛尾響さんへ 売店にわきたつ声や靴音が幸せそうできっぷを落とす/牛尾響 とりあえず、「はむはー」とだけ言っておこう。 歌のなかで幸せそうな音がして日々の隙間に切符を拾う 笠木拓さんへ 贋物の毛皮だと思っていました。 歳月に小さな傘をさすようなあなたの読み聞かせの海にいる 北村早紀さんへ 僕はまたダンボールを買ってしまったよ・・・ ふわふわの(だが如月の)バス停を気高く跳ねながらゆくたましい 向大貴さんへ ごめんなさい、本当にごめんなさい そういうの言わないでって言わないで。(眠い)向くんの背中はまるい 坂井ユリさんへ 目から灯をこぼさぬようにして渡る 橋がしずかに道となるまで/坂井ユリ 焼き肉ですね。焼き肉しかないですね 道が道になる前のこと ひだまりの果てにしずかな灯を置いたこと 榊原尚子さんへ これから敬語を使わなくてもいいですか? こじらせておいた闇からゆっくりと美しい鳥を引き上げてくる 中澤詩風さんへ ラーメンの謎は、解けないままがいい 詩から風が来るのか(そうじゃない)風は詩の方へそしてもっと向こうへ 中山靖子さんへ おはようございます。そして、おやすみなさい。 タイムラインがしずかになったそのあとにひっそりと湯を注ぐ人だった 廣野翔一さんへ なんだかんだ言って、感謝している。 雨あがり(そこにドラムは無いのだが)鳴らすのだいつか城になるまで 村川真菜さんへ マリオをよろしく。 おくぶたえの知らない闇のなかにさえドーナツの輪や絵本があった 山田峰大さんへ これが限界でした・・・ あからさまに泣いてみるのは愚かだし楽だし真夜中だし無理でした 藪内亮輔さんへ 不愉快な電話を終へてどうやつても即死コンボがしづかに決まる/藪内亮輔 決着をつけましょう 徹夜明けのしずかな当たり判定を聴きながら堕ちていったのだった 一杯のラーメンとして降りてくるかなしみ、そして二杯目が来る /小林朗人 12 (非)忘却のためのちぐはぐな試論 群像は百万遍をながれゆきとどまる側がもっともさびし/永田紅『北部キャンパスの日々』 流れゆく群像をああちぐはぐな相貌として 忘れるだろう 洛中をうごうごする狸たちよ、一切の高望みを捨てよ。/森見登美彦『有頂天家族』 化けたってお前の(俺の)喉なんだ 日暮れの吉田山の紅(くれない) * うつむいて潮のにおいをひもすがら壜につめてはキスをあげたい おぼろげなにおいとさし絵の森だけを私の中に本は残した/牛尾響 それだけのことでいいんだよってこと伝えに本を閉じて出かける 北風は無数の春のララバイを、幸いの音を君に託した ふくらんでいくたくさんの感情を見届けながら咲いた花です/北村早紀 花ひらくときのまを見届ける君のああ跳躍を見ているからね 大それた貴殿であれよ思うままさあ高みへと向こう側へと 部屋は青くあらがはずに砂へと風解(ほど)けきつともう目をあけなくていい/向大貴 砂の窓 青春であるかぎり目をあけること、あけわたすことなかれ なかなかの風見鶏ですわたくしはしかと尾をふる 風船たちに 光にも歌にも街はつつまれて明日が来るのを忘れてしまう/中澤詩風 では今日を続けましょうか詩歌さえつつんでくれる手や光たち むしろおおらかであるべし わがはいは円(まろ)き甘味を名にし負う猫 サイダーを飲み干したあと容れ物にしばらく残る音を聞いてる/村川真菜 僕だけの灰を落としていいですか炭酸水の名残の音に はてしなくしらしらとつけづめみがくしずかな声を炎に変えて つれてってくれた旅行でことごとく帰りたいって泣いてごめんね/橋爪志保 帰るためのこれは旅だね朝食の果物にくち濡らして笑う 泣いたあと顔を拭ってやわらかなまやかし(まるですこやかな頬) 肥大した昆布のはしに歯を立てて味がないのを確かめている/中山靖子 余白にはいつかあなたがその味を教えてくれたクレパスの色 さもあらば火器を赦そう(薔薇色の奈落)なべてが烏滸がましいよ 海の砂を踏めばわずかにずれていく視点や語尾や記憶の在り処/榊原尚子 海鳴りの語尾をあなたは冬の砂時計の粒として聞いていた 青い小花(しょうか)の輪のようにただただ歌うクレイ・アニメのやさしい少女 夜を歩いて夜のあなたへ会いにゆくそのひとときがただ花だった/阿波野巧也 ひとときというつよき花 君の根のふとき果敢な時間が咲かす そういうSTYLEで往け 仇となる智恵だとしても好悪にはすりかえないで研磨してゆけ 雨上がりの腕に小蜘蛛をまとはせてすこしだけ高い空を見てゐた/安達洸介 蜘蛛おいで、休んでおゆき。いつだって未来のわが腕に覚えあり ままならぬ翼だけれどおっとりとゆけるさ君と彼方へゆくさ ゆきやこん 少女もやがて街を出ていくつもいくつも踏む蕗の薹/松尾唯花 来ぬ人をまつほの浦のまつおさん、少女のままで海へ漕ぎ出よ ヒロイック・ノスタルジーを背負い込んだ(嘘みたいだぜ)一途な黒衣 名画座を去りたる客の多かりき闇から夜の街へ散らばる/廣野翔一 革靴をつやめかせまた散らばった足取りを追うお前の足だ こいねがわばや 灯をかかげ詩をめぐるあおくて遠い帰途を見せてよ 鶺鴒はもう少しだけ生き延びてあなたの窓を横切るだろう/小林朗人 替え玉がスープへと飛び込むように生き延びてくれ 飲み干し夜空 ともすれば名前呼びまちがえる夏 視るより君に近づきたいよ あいうえおかきくけこさし好きだから 好きだからいま遠回りする/朝永ミルチ すせそたちつてとなにより嫌いだわ 嫌いで嫌いで駆けつけてやる サーカスの風上にいて祈る手のゆびというゆび輪廻を咲かす うつくしかった。遠のいてゆく背中へと引きとめるよう降りだす雨が/坂井ユリ 降る雨をあとすこし引きとめてやりたかった/志村貴子をめくる やましさはまだ尽きなくて道のりに猫がいたなら拾って喧嘩 知り合ってののしりあってさよならの君に果たし、いや招待状書く/山田峰大 デートいけなくてごめんな完膚(みねぴ)なきまでに語らい(ののしり)合おうぜきっと かなしいがやまびこだった……と思うだろう? もう一度手をひろげて聞こう * もはや詩句さえ捨つべし 数理撃ちくすぶりし塵、焼けし唇(くち)、鏃 よりよくやすけく透けよ やたがらすぶうんって飛んで、ちりぢりの様子にくぎづけだった僕ら やぶれたる宇宙を君は領土としすべての屋根へ今朝を降らせた 虹、といふきれいな言葉告ぐることもうないだらう もう一度言ふ/藪内亮輔 口にすることばをきれいだと思う、に到るまでの土砂降りのこと 息は生き、さう思ふまで苦しげに其処にゐるだけなのにくるしげに/藪内亮輔 げにこれは苦しい息だ 歌うことがそのまま此処にいることでなく 火のゆびをからめあつたら言葉つて危険で美しい伝染病/藪内亮輔 相聞は声と声(病と病)ゆきちがわせるだけの火遊び 街灯が雨を光の墜落に変えるさなかにだからこそ君は愛を歌えよ * この川は記憶を甘やかす川と雪柳もうすこしだけ見てる/吉岡太朗 もうすこしだけのつもりでいつもいた、いたんだ川の傍(かたえ)にいつも 退屈をかくも素直に愛しゐし日々は還らず さよなら京都/栗木京子『水惑星』 焦燥をかくも愚かに憎みいし日々は還らず 返さじ 京都 プラスチック・スプーンですくうひとかけの記憶から噴きあがる新緑/東郷真波 透明な匙ですくえるかたさへと変わるよじきに、だから、さよなら /笠木 拓
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