光森裕樹 『鈴を産むひばり』
ゼブラゾーンはさみて人は並べられ神がはじめる黄昏のチェス
少しの想像によって、ありふれた風景が全く違って見えるときがある。
通学路で不意に「これは夢かもしれない」と気づくとき。空き地に広げた段ボールのうえで海賊ごっこを始めるとき。友人の視界では「赤」と「緑」が逆転しているのではないかと疑うとき。
目の前の風景はいつも通りに流れているはずなのに「普通」が引っくり返されるという魔法が時々起こるのである。
そのような魔法の一つ、特に鮮やかな一つがこの歌だ。
夕暮れどきの横断歩道[ゼブラゾーン]で今日も信号待ちをしている。青になれば両岸の歩道から人々が動きはじめる。ごくありふれた風景。
ところが実は、信号待ちをしている人たちは神が並べた駒。ゼブラゾーンをチェス盤にして、神々は思いのままに駒を操って遊んでいる。
自ら歩いていると思っていても、気まぐれな神が描く運命のまま歩かされているにすぎない……。
いつもの横断歩道が、もはやチェス盤にしか見えなくなってくる。
このような魔法は時に楽しみを、時に少しの不安を私たちに与える。
武村みこ (2019年9月20日(金))