一首評〈第60回〉

増田静 『ぴりんぱらん』

なんでなんで君を見てると靴下を脱ぎたくなって困る 脱ぐね

誰かとつながりたいと思うとき、あるいはつながっていると認識しているとき、それでも隔てるものは少なからずあって、ゼロではないのだろう。じぶんとひととの距離は歴史的あるいは社会的な規定とか、すぐには手の届かないいろんな力によるところが大きい。手をつくしても、余計にわからなくなることだって多いのだ。

提出歌の「靴下」は、そうした隔たりが可視化されたひとつなのかもしれない。
普段はとりたてて意識することの稀な衣類という位置づけが、ひそかに機能する結界のような印象を与える。
「靴下を脱ぎた」い、という相手へのどこまでもナチュラルな志向。
それを「脱ぐね」、とまっさらなままさらす。
初句の「なんでなんで」の字余りから、細い糸の上をすべってゆくような衝動に引き込まれる。

隔たりの超え方が素直すぎて、ひとがひとを希求する、そのむきだしな部分を見せられたようで、はっとしてしまうのだ。

笠木拓 (2007年1月15日(月))