一首評〈第34回〉

兵庫ユカ 短歌ヴァーサス5号 「歪みのなかに」

かたちだけ質問を待つ 発芽には適さない土としてこの場は

わたしがこの歌に関してまず思うのは、切り捨て方の巧さである。
「かたちだけ質問を待つ」という言葉は、もうすでに答えが出ているという事実を切り捨てている表現であり、また「この場」というものを「発芽には適さない土」であると切り捨てている。
様々な形で表される作者の諦めや絶望感は、あくまでも軽い。
けれど鋭い。
わたしには、何の質問であるのかも、どんな場であるのかも推し量ることはできないけれど、その切り捨てたものの山からは、彼女の痛みと孤独が見て取れるのである。

香山凛志 (2005年8月16日(火))