一首評〈第29回〉

山崎方代 こおろぎ

一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております

人間は孤独だ(京大短歌内にもそう言われた方がいる)。
そんな孤独な人間が、他者を見つけ、認めて、恋をする。純愛ブームにあやかって(なんだそれは)、こんなドラマはどうだろう。

自分一人だった世界に、あるとき、まだなんだかよくわからない、でも気になる別人がいる。どうしよう。ふと目にとまったあかい南天。

年をとり、南天を見るたび、あの頃のあの若さを思い出す。
しかし自分には長年連れ添った相手がいる。子も孫もいる。
南天だけが、あの頃の自分を知っている。覚えている。
南天だけが、あの頃と変わらないあかい色で、静かに自分の老いを見守ってくれている。

まもなく南天の花が咲く。

吉村千穂 (2005年5月1日(日))