松島綾子 『京大短歌』 13号
地下鉄のレールを遠く伸ばしたる町のいづくに昨日が眠る
地下鉄駅を出ると、思いがけない景色に出会う時がある。
冬に地下鉄で南部から北部へ移動したりすると雪景色に驚かされたり、突然の雨に泣かされたりと。ごく日常的な乗り物のはずなのに、空間を超えてどこか意外な場所につながっているような錯覚。
この歌の地下鉄にはそんな不思議さを感じる。しかも、町自体が生き物のようにしなやかにレールを伸ばしているのだからますます不思議な空気を醸し出す。
美しいだまし絵のような一首。
読んでいると自分の中にある懐かしい景色が見えてきそうである。
片柳香織 (2002年10月1日(火))