西之原一貴 『京大短歌』 13号
枝高き並木の奥に今日もまた戸が開いている寮の入口
手入れをされずのびきった並木の枝々が、大時代的な男子寮の建物の独特な雰囲気を醸しだす。
あけ放たれた入口の扉は寮生の開放的な性情を思わせ、通り過ぎるものを自由の志向へといざなう。
それは「自由」こそ同時代に生きる若者として共有すべき感覚であるという<無意識>の表面化をも促すのだが、しかし、作中主体はその「自由」を手放しに受け容れる<無意識>に反発し、あくまで理知的な態度を崩さない。ともすれば「自由に」生きることを強制されがちな現代への痛烈な批判が、距離をもった描写として表現されているのである。
小島一記 (2002年8月1日(木))