一首評〈第1回〉

水野ふみ 『京大短歌』 12号

立ち読みの途中突然かなしくて書棚に縋って泣きたくなりぬ

何とはなしになきたくなるときがある。
でも、実際に泣けることはない。泣きたいような心持ちが胸の中でたゆたっよるべを失う。
そんなとき、この歌が口をついて出る。
この歌を口にすることで、やりばのない重いの行き先を見つけたような気になる。
人は一人ではなかなか泣けないものなのかもしれない。
作中主体にとっては書棚、私にとってはこの歌。
どこかに気持ちを解き放つよりどころがあるのは幸運なことだろう。

松島綾子 (2002年6月1日(土))