歌会の記録:2003年3月21日(金)

歌会コメント

追い出し歌会 参加者参加者11名、うち追い出されメンバー3名。
15首プラス澤村さんによる9首の連作というたくさんのお歌が出た、にぎやかな歌会になりました。
追い出された方々、これからもよろしくお願いします。

詠草

01 感情はまだ孵らない胃の奥へ奥へと詰める冷えたジャムパン  金田光世

02 オルフェウスは振り返るべし自づから朝五時半は空漠たるべし  中島祐介

03 雷雲の煽れる丘に枇杷の木立つ自治ひろびろと心満たして  松本隆義

04 風のない午後とはなうた洗濯機 泡の白白すべてを消して  井上リリー
  名をあまた変へつつ君が君ならば白のなかにも色は増すらむ  西之原一貴

05 含ふふみ咲き散り初めにけり梅の花京短にゐる我が身なるかな  北辻千展

06 京阪のいつもと同じ返り道おれんじに染める春の訪れ  山口弘

07 でも愛はただ燦々さんさんと降り注ぐ 涙に、涙になれない頬に  生駒圭子

08 ぬばたまの疲れし夜の現実を弱める為に音楽おとを強める  北辻千展
  奏ではじめし汝が音楽おとがその色ほどに汝を千々に展げむことを  西之原一貴

09 本当のことがひそんでいるような青い鳥かご一千の竹  今田絵里香

10 あたたかい骨のほこりを巻き上げて消える突風車の波へ  金田光世

11 これからもこれまでのやうに膨らむわさ いづこか高きふたつの虹へ  柴田悠

12 ききたるは千のこゑなり真清まさやかに雲路は高きひかりひらきつ  増田一穗

13 巣を出れば丸き巣と知る 春空はあなたを画家にもチェリストにもする  松本隆義

14 僕たちはそして互いに委ね合う碧瑠璃へきるり色の夜を閉ざして  生駒圭子

15 馬鹿な友なれば馬鹿と罵倒するわが内の草踏み分けながら  澤村斉美
  馬鹿な友われも従きゆかむ春雨が春のひかりをなせる草原  西之原一貴


[連作 澤村斉美]

   どれくらい古いのだろう 京都には
   京大短歌会という小さな沼がある

   春になれば恒例の
  「ビラを貼ることも青春群像」と年上の人が手伝いに来る

   夏ごとにこもる習性
  紺色の夏のさなかにわれらあり一行の詩のように寝そべり

   秋のはじめに老ける
  食欲の芸術の読書のさびしさの中から青い声を発する

   忘年会は人が現れては消える
  どの店が一次会だったか祝日のメキシコ料理店の星の飾り

  引継ぎのあっけなさしかし新しい会長はつらいひとりで辛い

   春が来る 或る人は
  マウンテンバイク引き寄せるさりげなさ常に冷静な人として去る

  土の道にまるい影あり本当に去るとき何を見つめればいい

   クリアファイルに記録を保存、めくると一頁一頁光る
  うす青い爪のようなる水面にねむらせてゆく数々の声

  沼光るときには沼の精がいる去りにし人の影より濃く
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