門脇篤史『微風域』
天井のスピーカーからこぼれ落つ死んだ男のピアノの音が
カメラのレンズは望遠レンズや広角レンズ、魚眼レンズといった種類によって画角が変わる。映せるもの映せないものは変わり、たとえ同じものを映しても縮んだり引き延ばさ れたりして同じようには映らない。
門脇篤史の短歌は他の歌人の短歌に比べてすこしひろい余白的な空間が立ちあがる、他の歌人たちの多くが使っている標準レンズとは違ったレンズを用いているように。虫眼鏡で覗くようなズームの効いた歌でも、このひろい空間が立ちあがるのが不思議だ。
例えばこの一首。ピアノの音を聞いている、座っていると思われる主体にフォーカスがいっている。しかし、主体の周りに同じように座っている人たち、それもうなだれているとまで思わされて、さらに歌には書かれていない窓から見える景色は(雨垂れをも想起して)主体の情景になり、それらに読者は目を向けざるをえない。
この歌では、上句での上から下への動きが十分な広さの空間を立ち上げて、下句の「死んだ」に代表される言葉の質感がその空間に色づける。門脇の語順や言葉の質感などによってあらわれる、カメラのフォーカスの余白に存在する人やもの、主体をつつむ光にわたしは何度も見惚れてしまう。
森井翔太
