歌会の記録:2004年3月21日(日)

歌会コメント

追い出し歌会 参加者9名。
追い出しならではのお歌がたくさん出て、とても楽しい歌会でした。
飲み会からも多くの方が参加して下さり、永田さんも久々にいらっしゃって下さいました。

詠草

01 春夜摘み 種から抜けばよかったね山越す渡り鳥に手をふる  松本隆義

02 この町で旅人となる空町(そらまち)の住人雲を鞄につめて  金田光世
  この町で旅人となる歌町(うたまち)の住人雲を鞄につめて  北辻千展

03 君となら錆びしピエタを築かまじこの三月に雲へばりつく  松本隆義

04 古き手帳時効となりし約束にえんぴつで薄く下線をひきぬ  片柳香織

05 変様、或いは循環という名の。

  (ながくながく日が暮れる。空の下で、一つになって光る。)
  こっそりと、零れた雲を濾過すれば夜の鱗は理科室映す

  (あやとりをしよう、と君が言った。鮮やかに織糸を引く。)
  欲せばどんな戸も開あくと唐門で瓜子姫より二胡を受け取る

  (終着は井戸である。中を覗けば、環りみちが見つかる。)
  亜麻色の竪琴リラを爪弾く楽師いて三部曲トリロジ-より生まれくる途  増田一穗

06 俺、待つし。まぁ奴(松島綾子)さんが言いかねた三つ四(金田光世)つ身の上話(井上雅史)するまで  光森裕樹

07 汝(な)が色の糸持ちあひて綾織りき永く残さむ風土記のくだりに(北辻千展)

08 ここではないどこかへ続いているひかり 言葉がある、私たちにはまだ。
  飛びそうな裸足の踵 桜木に礼して告げるTHANK YOU GOODBYE  生駒圭子

09 指の間を愛し合うたび生るる文(あや)「子待つ縞馬」の絵の話する  松本隆義

10 鴨川を背にしてゆれる柳からわかれてゆかな君のひといろ  松島綾子

11 (花の似合わないあなたへ)
  「御心の渇いた人は花をどうぞ」と言って欲しいなとあなたを見てる  山口弘

[連作 金田光世]
   或る女の印象としての京大短歌

  テーブルとその人のシャツの格子縞平行となり歌会はじまる

  ひらひらと語を調えていく爪の十あることの華やかさを思う

  擬音語を発する声は最良の湿度をもって鼓膜を揺るがす

  白紙に最後の歌は解かれて夢から覚める春コートたち

  穏やかに遠ざかる背は春陽色石踏み込して渡る鴨川

  その人の言葉のえくぼ鮮やかにさざめき落ちる闇夜鴨川

  梟の声で話をする人の指滑らかに静止する御堂

  テーブルは貝殻の散らばる汀その人はゆるやかに潮風


[連作 澤村斉美]
   微かに、はばたきの音が聞こえる。
  傘の鳥ねむれる鳥のたましひを見つけたらしい夜明け、ももいろ。

  祀りする白き巫女姫の目見(まみ)の黒あやなすこころこの春に生ある

   「レコードではない、ライヴなんだ」と君は云った。
                    言葉と人間の、ライヴ。
  声のしないしまうまをながめてしまふかずかぎりなくきみは詩となる

  なかぞらにしまらくきみの歌を思もふゆふすげ、きすげ草原の夕

  うすき肩やなぎの青き芽を縫ひて歩むそのかほ「リア王」で見し

   楽しさうなんだ、彼は。でも、出発の時は近づいて
  いら草のうへにフレンチトーストを(まっ青な夢に匙を残して)

  中洲にはかはらずひかり溜まりをり遠いキャンパスでひるがへるコート
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