一首評〈第76回〉

大滝和子 『銀河を産んだように』

大海わたつみはなにの罪ありや張りめぐるこの静脈に色をとどめて

この歌を読んで手首を見た。
あ、ほんとだ、海の色!とはっとした。
わたつみ、という原始的な海を連想させる響きに、圧倒的な存在感で海が目の前に広がる。
そんな海を前に私は無力だと思う。でも手首を見ればたしかに海の色。しかも頼りないほどその線は細く薄い。
本当に、一体どんな罪があってこの身体の中におさまっているの、と思う。
この歌の新鮮さは、血液と海水の濃度ではなく、その色でつないだところにある。
血液の色と言えば赤色、私たちが目にする血はいつも赤い。
私の身体の中の大海は、もう陽を受けてきらきらすることもなく、ただひっそりとその青い色を見せるだけ。この身体はわたつみに満たされている。
遥かなる海と私という存在を、一気につなぐ三十一文字に、身体の中で音もなく波が打ち寄せているような感覚に襲われた。
その静寂は、体温を超えた不思議な温かさをもっていた。

華野まり (2008年12月1日(月))