一首評〈第22回〉

岡本かの子 『浴身』

くれなゐのだりあのかたへいやふかき紅に咲く大輪だりあ

夏のおわりに咲く、もっとも色の濃い花がダリアである。
一輪のダリアの紅色、そしてそれに連なって咲くさらに一輪のダリア。
推敲の跡を感じさせず、無防備とも思えるこの三十一音には、
読む者を作者の描き出す景につなぎとめるというよりはむしろ
景の外へと誘い出すような効果がある。
視覚の世界から、視覚が意味をなさないエネルギーだけの世界へ。
花の形が消え、色が消え、生命力のようなものだけが残る、
その一瞬を楽しみたい。

觜本なつめ (2004年9月1日(水))