歌会コメント
追い出し歌会 参加者11名。
生駒圭子さん、金田光世さん、觜本なつめさん
増田一穗さん、光森裕樹さんの追い出しでした。
合計68首、6時間以上にも及ぶ濃密な歌会となりました。
お名前の詠み込みや、折り句など、
技巧と遊び心が満載です。
詠草
01 ゆく末がふいにかなしくなっており春光園にバスを待つ昼 加藤ちひろ 02 「パスティーシュ五篇」 觜本さんへ 葉ざくらの影まさりゆくこんなところよりも心に樹を植えるべし 生駒さんへ 音楽は僕らの耳へ流れこむ耳を澄ませて聴いていたころ 増田さんへ いたづらに四月の日々は無限花序 月ゆ声あり! とどまるなかれ 光森さんへ といふことは翼やすめるかうもりの(てんでノホホン)ごとく逆さまだ 金田さんへ うそのような春空の下 肺に満ちる碧(みどり)がいま風をすずろかす 下里友浩 03 隠密も理由聞けずにいることさピエロがいつもピエロたること 輪のなかをつと離れたる芍薬のゆく橋もとな爪のさきまで どんと行こ!ま、渓谷は暗くても渡ってしまえばそれだけのこと 澄む水にいるのが鱒だ人誉むるみずには美(は)しく住むものありき 歌会はどうだったかね民強く生きよと夜の鉄路は語る 西之原一貴 04 翡翠だけとほす恋人とほいけど未だ云ひます火とこだまだと とつくにの花嫁たれも着飾りて弧のながきかな早雁(さがん)のわたり その論の器用大胆かつ不敵名もなきようだ異端か果ては いでよ出よ畝に巣喰えるものたちよ泥のゆるむをたしかめてみよ 觜本なつめ 05 ことばの泉湧く草原で 心臓をからから鳴らすライオンをのせて夜明けを感知している 謝れど戸を持つ象の一群は杯を持ちのもうと誘う 愛読書を犀の角へこめて待ち目覚める日には天泣を知る 増田一穗 06 水面をひらく手つきになつかしい眠りの底がすこしふるえる 会いにゆく満たされなくてもいい燃えるテールランプの渦をかきわけ さよならの発音がまだうまくない黒縁眼鏡のひとが笑うよ 鐘ははじまりだけを告げいつかまた戻る列車に少女は乗った ジュラルミン製のとびらの向こうから手紙が届く こちらは晴天 東郷真波 07 白い独楽稽古せずともよく回り春のひかりをひらひらかへす 風は満つ森ゆうきうきあらはれし吟遊詩人すてつぷを踏む 「虫愛(は)しも」とな。爪草をつみにゆくをみなの声はゆらゆらと春 幻想の神がねたみつ夜の窓のまどもあぜるは虎の微笑み 余すたびとほき手花火おもひだすかの夏・湖(うみ)は・フシギな・ほのほ (季節は幕をととのへてゆく)「こめでぃあん・こめでぃえんぬにピンクの薔薇を!」 このたびは身もとり合へずさし上ぐる樽の葡萄酒酌み尽くすまで 澤村斉美 08 お御堂のつもごりがたの夕間暮れ眼裏に月を浮かべつつ待つ 羽根の城森に抱かれてとける凪つめたくひかるメノウとヒスイ 息を少しかけてしあげる真夜中のけいどうみゃくを焦がすからくさ やって来たのは、うさぎとアリス またうさぎポピーと喫茶アマリリスすますひだまりとびだすアリス 金田光世 09 ヴァチカン 贋鞄ぴかぴか並ぶ石畳はらいそ論はかくもあれかし ローマ 見上げれば凱旋門に捕らはれし奴隷の上の花と目が合ふ 香港 血色の悪き天井見ておれば不夜の城は白く撓んで 京都 UZIは似合はないといふ友の指先かほるアメリカン・スピリット 橋姫氷魚見 10 遊ぶこと。嘘をつくこと。控えめに泣き笑い、たぶん祈ること 覚えては忘れふとまた思い出し、文字を繋げばどこまでも夜 生駒圭子 11 ほとほととダヒスほほとす一日(ひとひ)とす 人魂ほ出すまひまひほ出す 目を悪くして減りにける夏の星流るる時は君が願へよ 光森裕樹 星空に暁星を見る明け方までのこるそを見て君を思はむ 呼ぶこゑの遠く聞こほゆ蝸牛の殻の内なるみつしりと闇 觜本なつめ 呼ぶこゑが聞こへますか?それならば、さあまひまひの話をしやう 北辻千展 12 觜が本当だけをなぞるからつめたい雨にめざめる五感 いまはただ鼓膜を揺らすけむりとかいとしさまじりのことばを待つよ 増える階段を超えればひんやりと鳥のゆく空ほら、春が来る 光あれ 森の奥にはゆうやみを生みだすはずのきのこの呼吸 金色の田園を抜け満ちたりた土を踏む足 夜明けをまねく 東郷真波
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